服を取り上げて内定辞退を阻止! バブル時代の就職活動は、非道だけれど羨ましい……

 ここまで、複数回にわたって、さまざまな雑誌記事をもとにバブルネタを取り上げてきた。

結局、バブルも今も世の中はいつでも残酷な現実しかないものだというのが、筆者の想いである。

けれど、バブル時代の現象として、ちょっと羨ましいことがある。それは、当時の大学生の就職活動である。

当時は、まだ大企業間で「就職協定」が存在し、会社訪問の解禁日や内定の日付けが明確に決められていた。そうした中で、好景気を背景に優秀な人材を確保した企業は、さまざまな方法で「青田買い」に精を出していた。その恩恵を受ける学生も多かった。

当時の、協定破りの青田買いの方法は、現代視点では実に面白い。どこも企業の看板があるため「セミナー」などと称して、学生を集めて就職説明会を行うわけである。その方法も手が込んでいた。土日の会社が休みの時や早朝に学生を集め、裏口から社内へと導くのである。それでもまだマズかろうと考える会社では、学生に私服で来訪させ、会社の面接担当者も私服で待ち受けて「プライベートな関係」を装う。あるいは、ホテルの喫茶室などで面接する、なんてこともザラに行われていた。中には、こんな方法もあった。

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スパイもどきだったのはD銀行。同行は協定破りが発覚しないように慎重に慎重を期した。なんと7月2日の集合場所は「日比谷図書館前」で、こう指示された学生もいた。
「スーツを着て雑誌を持っている男が立っているから、『若杉さんですか?』と声をかけろ」
“若杉さん”に帝国ホテルに連れて行かれて、部屋で面接が行われた。(「週刊現代」1989年7月29日号)

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いや、スパイごっこも楽しいけれど、たかだか就職の説明会レベルで帝国ホテルって、羨ましいじゃありませんか。

この、バブル時代の就職活動。目を見張るのは、企業間の空気の読み方である。とりわけ大企業は表向きは就職協定を遵守しているというスタイルを取らなくてはいけない。もちろん、どこの企業も協定を守る気なんてない。だからといって、無視して学生に内定を告げてしまえば、ほかの企業からは非難されるし、新聞ネタになりかねない。だから、お互いに「押すな、絶対押すなよ」としながら頃合いを見計らって「赤信号みんなで渡れば怖くない」と動き出すのである。

1989年の例を見ると、協定での会社訪問の解禁日は8月20日。でも、どこの企業もそれを守る気などさらさらない。6月末にはすでに「7月1日頃だな……」と、目星はつけていたようだ。

1989年の7月1日は土曜日。社会の動きが鈍くなるこの時期のこの曜日が勝負時と、各企業は狙っていたのである。そうしているうちに、前日の6月30日の金曜日、日経連が就職協定の遵守を再確認する通達を加盟企業へ送付した。意図があったかないかはわからないが、これが逆にスタートの合図となった。

まず7月1日に商社や損保が動き出すと、それを見て、その日の夜から翌日にかけて銀行が動き出し、翌週7日の金曜日から週末にかけて多くの企業が採用活動を実施したのである。

採用活動とはいうけれど、実質「セミナー」などで選考は完了。会社に呼び出して内密に「内定」を告げるのである。

好景気を反映して、一流大学であれば人気企業の上位にランクインしていた、住友銀行と日本生命と日本航空のすべてに内定をもらっているのも当たり前。中堅、いうなれば三流大学であっても、銀行や証券会社など上場企業からも内定がもらえるほどに売り手市場だった。

羨ましいのは、その後の内定者の拘束だ。ホテルに呼び出して、芸者をあげてステーキに寿司も食べ放題のどんちゃん騒ぎ。締めはソープに行き、スーツ代にと10万円を渡されてホテルに宿泊……。

なにせ、この時代は就職活動するだけで、学生はオトクな時代である。「セミナー」に参加するだけでも、会社の扱っている商品がもらえるのは当たり前。製薬会社ならドリンク剤をもらえるし、外食産業ならお食事券のプレゼント。セミナーのはずが、屋形船で宴会なんてのもあった。

一流企業だけでなく、人気のない企業でも「入社すれば300万円までのクルマをプレゼント」なんてエサで人材を確保しようとしていたわけだから、羨ましくないハズがない!!

もちろん、そうなると、どんちゃん騒ぎをした挙げ句に内定を辞退する学生とかが出てくるのも当たり前。企業の側も心得たもので、軽井沢など遠方へ連れて行く。服を取り上げて、ダサいジャージに着替えさせて逃げられなくする。内定を告げた場で「ほかの会社に断りの電話を入れろ」なんてのも、当たり前だった。

こうなると採用される側もする側も、無茶苦茶である。家族を危篤にして脱走する内定者もあれば、内定を乱発しすぎて採用人数が過剰になって困る会社も。後者の場合、内定取り消し代として50万円を叩きつける企業や、ディズニーランドに案内しておいて採用担当者が逃亡するという謎の解決策も用いられたとか。

今や学生の就職活動といえば、何かと頭を使うテクニカルな時代。バブル期のそれは、空気を読む苦労はあるけど、どんちゃん騒ぎは、羨ましいよね。
(文=昼間たかし)

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